禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
せめて、第一騎士団と共にあったなら心強かったのに、とアンの心に淋しさが落ちる。
リヲが直接守ってくれなくても、彼の指示した軍隊が側にいてくれたら。
自分も騎士でありながら甘えた考えだと弱い気持ちを振り払うも、なんの表情も浮かべない目の前のリヲにアンの心はどんどん悲しくなっていく。
――…私は…私が戦うのは国の為で女王の為で……けれど何より、兄さん。貴方の為なのに――
森からの強い風がザアッと吹き抜けていく。金と銀を靡かせて。
「…以上だ。明日より市街地での戦闘シュミレーションを行う。第二騎士団の指示に従って訓練を行え」
そう言って展望室から立ち去ろうとしたリヲの背中に、アンはたまらず呼び掛けた。
「…待って兄さん!私…!」
「軍議で…陛下の承認で決定した事だ。お前もデュークワーズの騎士なら誇りを持って従え」
振り返りもせずそう告げたマントの靡く背中に、アンはすがりたい衝動を押さえて強く叫んだ。
「私は…私が戦うのは兄さんの為よ…!
私は騎士である前にリヲ=ガーディナーの妹なの!私は騎士である事より、貴方の妹である事を誇りにしているわ!!」
アンの苦し気に吐き出された言葉に、リヲの足が止まった。
けれど。
「ならば尚更、指示に従え。甘えるな。
俺が側にいなくとも、騎士として戦い抜け」
アンに与えられた言葉は、彼女の心を慰めるものでは無かった。
振り向きもせず去ってしまった背中に、アンはただ唇を噛み締めて感情を堪える事しか出来なかった。