禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
けれど、どういう事かアンは俺によく懐いていた。
かまってやらずともチョコチョコ後を付いてまわり、口を開けば『にぃ、にぃ』と舌足らずに俺を呼んだ。
兄とは呼べぬほど優しくした事がないのに、それでもアンは俺を慕い剣の稽古にまで付いてきては嬉しそうにそれを真似た。
そんな歪な兄妹関係のまま時は流れ。次第に俺はアンに複雑な感情を抱くようになってきた。
健やかな成長と共に、アンは日々美しくなっていった。
太陽の髪も咲きそめの勿忘草色の瞳も朝露に濡れた花弁色の唇も。彼女は全身で生命の美しさを謳っていた。
その神に選ばれた美貌を持つ少女が、俺に笑いかける。俺にだけ慕いの色を籠めて。
驚異と憎悪と――憧れと。
まだ少年だった俺は自分の中に渦巻く想いに翻弄された。