禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
アンを妹だと、家族だと思った事は無かった。彼女は敵なのだと。
けれど、その思いは次第に自分の望まない形へと変化していく。
『アンは本当にリヲが好きねえ』
『うん、大好き!アンも大きくなったらにいさんみたいな騎士になるの!』
アンが6歳になる頃。彼女がとびきり兄を慕っていると云うのは皆が知るところとなっていた。
あまり俺に好意的でない屋敷仕えや親戚達もこれには微笑ましく目を細めた。
俺の居場所を奪おうとしている筈のアンが、俺の居場所を増やしている。
複雑な心境はますます少年の俺を蝕んでいった。
『にいさんは剣が上手だねえ』
ある日。
いつものように剣の稽古をしている俺にアンがそう言った。
俺は一人で訓練する時はいつも森の奥の広場へと行った。誰にも邪魔されず静かに集中出来るこの場所を気に入っていた。
そして、木々に囲まれ剣を振るう俺を倒木した樫に座って嬉しそうに眺めるのがアンのお気に入りだった。