禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
抱きしめた腕をほどき再び肩を掴んでミシュラはアンの顔を見つめた。
アンの顔からはさっきまでの戸惑いは消えて、ただ口をつぐんだまま視線を逸らしている。
「…好きな男が…いるんだね?」
「…………」
アンは何も答えない。それが何よりの返事となる。
「…………そいつは……僕の知ってる男かい?」
恐る恐る聞いたミシュラの質問に、アンは唇を噛みしめただ黙って目を伏せた。答えることは出来ないと言わんばかりに。
それが何を意味しているのか。
まさかと云う思いがミシュラの感情を大きく煽った。
「……アン、君は間違ってるよ。それは恋愛感情じゃない。ただの憧れや家族愛だ」
「…………」
アンは何も答えない。
スッと肩に置かれていたミシュラの手を無言で除けた。
その態度にミシュラの感情はますます昂る。
「アン。有り得ないよ。君達は血を分けた兄妹だろう。それは許されない事だ」
追い詰めるような台詞に、アンはますます口をつぐんだが
「それに、兄妹じゃなかったとしても。彼は君が囮になる事を黙って認めたような冷酷な男だぞ。君に相応しいとは思えない」
そう言ったミシュラの言葉に、アンは表情を一変させた。
「兄さんを悪く言わないで。兄さんはそんな人じゃない。きっと何か理由があったのよ」