禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
―――ヨーク将軍は黒い炎を出した後、必ず一度左手を握る。と。
それが単なる癖なのか、それとも何か魔法の儀式なのか、それは分からない。
けれど、一瞬。必ず隙が出来る。
ミシュラはそれに賭けて突っ込んだ。
読みが外れれば、左手の正面から突っ込んだ自分は一瞬で黒焦げにされる。
けれど、ミシュラの。長年総督として鍛え上げられてきた戦闘の勘は、外れなかった。
「ぐぁぁああっ!!」
ミシュラの青銀の剣は深々とヨークの左手に正面から突き刺さった。
手に馴染んだ愛用の剣の柄を、ミシュラは力を籠めて振り上げた。
「ぎゃぁああああっっ!!!」
ヨークの左手の指が、血飛沫ごと数本飛ぶ。
その返り血を鎧に受けてミシュラは後方へと跳ね下がった。
「これで魔法は使えないはずだ!」
叫んだミシュラに、同じく下がって体勢を直したアンが頷いた。