禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
ブシュウと、噴水のようにヨークの首から血が吹き出した。
真っ正面からそれを受けて、アンが真っ赤に染まっていく。
「……よくも………よくもサラを……!!」
吼えて、アンは引き抜いた剣をそのままヨークの体に振り払った。
甲冑の隙間を縫い、それは確実に右腕の腱を切り払う。
ガシャンと音をたてて剣を落とし、次いでヨークは膝を付いて崩れ落ちた。
「しょ…将軍っ!!」
アンを囲っていた兵達がどよめいた。
しかしアンの刃は止まらず、自軍の将が討たれた事に動揺する兵士どもを次々と切り払っていった。
白銀の弧が美しく舞い鮮血を散らしていく。
それはギルブルクの兵達にとってあまりにも速く、美しく眼に映った。
赤く染まった甲冑が驚異的な速さで黒い鎧達の間を縫っていく。
その兜の下に怒りに満ちた鬼の顔を隠しながら。
瞬く間にアンを囲っていた兵は半分にまで減った。
将軍を討たれた事とアンの人間離れした猛攻に、黒龍団は完全に混乱に陥った。
もはやまともに剣を構えられる者などいない。
その混乱を突いてミシュラも自分を囲っていた兵士達を切り伏せる。
「い…一旦撤退だ!退け!!」
黒龍団のうちの一人がそう叫ぶと、黒い兵士達は意識の無いヨークを抱えながらほうほうのていで教会から脱出した。