禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
アンにとってサラは従順な部下であり登城してからただ一人の友達だった。
他には男しかいない騎士団に於いて唯一の同性で心を開ける存在だった。
献身的に身の回りの世話をしてくれ、いつだってアンの心配をしてくれた。
『アン様、騎士と言えども女性のたしなみを怠ってはいけませんよ。アン様は稀代な美しさをお持ちなんだから、粗末にしたらバチが当たりますわ』
サラはよくそう言ってアンの長い髪を梳いてくれた。
『私の育った土地では夏になると山桃がたくさんなるんですのよ。いつかアン様をお連れしたいわあ』
遠い日を夢見て約束を紡いだ事もあった。
『アン様、実は私ね。第三騎士団のキトリ団長に憧れてますの』
ささやかな恋の話を聞かせてくれた事もあった。
そして。
『アン様。どうかご無事で』
いつだってサラは、アンの身を案じ祈ってくれた。
「…………サラ……………」
もう紡ぐ事は出来ない彼女との楽しかった日々が、アンの脳裏に溢れて止まらない。
騎士になった以上、人の死に立ち止まっていてはいけない。
けれど、目の前で亡くすにはアンにとってサラはあまりにかけがえの無い存在であった。