禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
傷心のアンを前に、ミシュラは自分の無力さを思い知る。
どんな慰めも発奮の言葉も、深く悲しみに沈んだアンの心には届かない。
抱きしめ涙を拭ってやりたくても、彼女がそれを望むのは自分ではない。
ミシュラは沈痛な思いで踞るアンにマントをそっと掛けてやると、静かに礼拝堂を後にした。
アンとサラを残した礼拝堂は夜の闇に染まり、御霊を弔うように沈黙を落とした。
夜は更け行き、やがて月が高く登り礼拝堂の天窓から明かりを仄かに射し込んだ。
静かで優美な光がアンに注がれ、金の髪をたおやかに映し出す。
扉を失った礼拝堂に風が吹き抜けキラキラと月明かりを反射させながらアンの髪を靡いた。
と、
礼拝堂の床がギシリと軋む音がした。
アンはふいにしたその音に驚いて慌てて顔を上げた。
咄嗟に音の方に向かって身構える。
けれど、足音をたてたシルエットを瞳に映してアンはその動きを止めた。
天窓から注ぐ明かりはその影を照らし出し、銀の髪を静かに見せた。
「……………兄…さん……………?」
ほうけたように呼び、目を見張ったアンの顔が、風に揺れる銀の髪を見留めてみるみる泣き崩れる。
「………アン………」
低く呼んだその声に、アンは弾かれるように立ち上がりリヲの胸へと飛び込んだ。