禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
「…う、うぁああ、ああ…っ!!」
幼子のようにアンは泣きじゃくった。
リヲの胸にしがみついて声をあげて泣いた。
「……兄さん…っ、兄さん…!」
血に汚れた顔にいっぱいに涙を零して、感情を爆発させて。
怖かった。辛かった。哀しかった。
得体の知れない敵と対峙させられ、目の前で唯一無二の友を失い、それでも明日も剣を握らなくてはいけない。
次々に訪れる過酷な試練。18歳の少女にはあまりにも辛辣なものだった。
けれど、それを慰める手はどんなに渇望しても訪れない事を彼女は知っていた。
一人で立ち上がるのだとずっと自分を叱咤していた。けれども。
月明かりの下で、彼女は神の慈悲を見た。
哀れで矮小な自分に神がもたらした刹那の慰めだと。
アンは泣いた。
愛おしいその胸で。唯一自分を預けられるその胸で。
誇り高い騎士でも聖なる乙女でもなく、ただ一人の少女に戻って、アンは泣き続けた。