禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
「……辛かったな…」
自分にしがみついて泣くアンの髪を、リヲはそっと撫でた。
触れるか触れないかの躊躇いの手であったけれど、それでもアンはその優しさに胸を震わせた。
「…兄、さん……」
しゃくりあげながらアンが見上げると、リヲは悲壮を滲ませながらも穏やかな眼差しを向けていた。
「聖旗守護騎士団の副長が殉難された事は聞いた。お前がヨーク将軍を討った事も。…さぞ大変だったろうに、よく耐えたな…」
リヲの言葉に、アンの涙がまた溢れ出す。
あれほど沈み冷たくなった心が溶けてゆく。
リヲはとめどない涙を流し続けるアンをしばらく撫で続けると、やがて体を離し長椅子に横たわるサラに向かって膝を付き祷りを捧げた。
「…妹が世話になった。礼を言う。
勇敢なる英霊サラ=ジュシア副長に深甚なる敬意と感謝を」
サラの指先に口付けし、リヲはアンを、聖乙女を守ってくれた勇敢なる副長を讃えた。
しばし鎮魂の祷りを捧げると、リヲは立ち上がり自分を見つめているアンへと向き直った。