禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
「…嫌……行かないで……」
アンは自分から遠ざかっていく背中に弱々しく訴えた。
けれどその背は振り向く事なく礼拝堂を出ていく。
「…行かないで!行かないで兄さん!!」
泣き叫ぶアンの言葉が夜の帳に響く。
微かな月明かりから夜の闇へ消え行く後ろ姿に、アンは最後の躊躇いを消して呼んだ。
「……リヲ……!!」
想いと共に禁じられたその名を呼ぶことは、アンの、妹の、胸に秘められた遠い日の禁忌だった。
森に見守られ禁じられた愛を謳った日を、アンは覚えていた。
ただ一度。漆黒の少年に愛された喜びの日を。
けれど、その呼び掛けが闇に消えた銀に届く事は無かった。
少女の儚い金の髪をはためかせ、夜は冷たい風と共に過ぎて行く。