禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~


「…嫌……行かないで……」

アンは自分から遠ざかっていく背中に弱々しく訴えた。

けれどその背は振り向く事なく礼拝堂を出ていく。

「…行かないで!行かないで兄さん!!」

泣き叫ぶアンの言葉が夜の帳に響く。

微かな月明かりから夜の闇へ消え行く後ろ姿に、アンは最後の躊躇いを消して呼んだ。


「……リヲ……!!」


想いと共に禁じられたその名を呼ぶことは、アンの、妹の、胸に秘められた遠い日の禁忌だった。


森に見守られ禁じられた愛を謳った日を、アンは覚えていた。

ただ一度。漆黒の少年に愛された喜びの日を。


けれど、その呼び掛けが闇に消えた銀に届く事は無かった。

少女の儚い金の髪をはためかせ、夜は冷たい風と共に過ぎて行く。





< 191 / 271 >

この作品をシェア

pagetop