禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
槍兵を配備したのは正解だった。
距離を取って戦う事で、昨日のようにヨークの黒い炎に一網打尽にされる事は無く済んだ。
それに、ヨークの剣は確かに強いが彼には技が無かった。
異常なまでの力と身体能力だけでアンやミシュラの剣を交わしたのであって、技術的なものは皆無だと、昨日の戦いでミシュラは見切った。
ミシュラの剣が長年の経験で培ってきた技巧を凝らすと、ヨークは予想以上に翻弄された。
教会の戦いに光明が見え始めた。
距離を保った槍兵とミシュラの器用な剣技でヨークを翻弄し、残りの黒龍団をアンが斬る。
アンを殺さず捕らえなくてはならない黒龍団は無下に反撃する事が出来ず、アンにいいように掻き回された。
「昨日と言い今日と言い、ちったぁ頭の回るヤツがいるみてえだな」
「君みたいな騎士の風上にも置けない粗野な奴に褒められても嬉しくないね。…いや、騎士と呼ぶ事さえ憚られるよ」
礼拝堂に剣のぶつかる音が響き続け、やがてそれは戦況の変化を表し始めた。
ヨークが槍兵とミシュラに包囲されアンに近付けないまま、黒龍団は次々とアンの凄まじい剣技に圧されていった。
兄との再会とサラの復讐を誓ったアンの剣は昨日よりも更に冴え渡り、力任せの黒龍団の兵達をいともたやすく切り伏せていく。
それを槍兵の攻撃を交わしながら横目で見ていたヨークが、兜の中からくぐもった溜め息をついた。