禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
「いい加減、今日でカタを着けねえとうちの陛下もご立腹なんだよなあ」
この期に及んで尚、ヨークはそのふざけた態度を崩さずに言った。
しかし、ミシュラ達の攻撃を大きく後ろに下がって交わすとグルリと大きく首を回し兜を乱暴に脱ぎ捨て殺意に満ちた漆黒の瞳を見せた。
その突然の行為にミシュラが得体の知れない不安を直感的に感じた。
「この際、虫の息でもいい。心臓さえちっとでも動いてりゃ俺が蘇生させてやるからな」
そう不適に笑んで呟いたヨークの視線は、黒龍団と戦い続けているアンに向けられている。
そして、ニタリと上がった口角と一緒にヨークの黒髪が黒鳥の翼のように大きくはためいたのを、ミシュラは見た。
「全員下がれっ!!物陰に伏せろ!!」
ミシュラの勘が、そう叫ばせた。
聖堂にいた全ての者がその声に振り向く。
刹那、聖堂は音を失った。時が一瞬止まったかのように、空気が固まった。
ただ一人、その先を読めたミシュラだじけがアンに向かって走り出した。
「アン!!!」
彼が床を蹴って飛び、その身体全てでアンを庇ったのと
重ねた両手からヨークが教会全てを飲み込むほどの竜巻のような炎の渦を放ったのは、ほぼ同時だった。