禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
同じ日の朝方の事。
デュークワーズ東部の大森林。
王都から遠く離れたこの奥深い森で、二人の女と三人の男が馬を走らせていた。
皆、頭巾を深く被り旅人の装束をしているがそのマントの下には剣を帯刀している。
そして、女の一人は長い髪で隠すように細い鎖のサークレットを額に飾っていた。紛れもなく王族の証である涙型の紫水晶を。
「大丈夫ですか、陛下。少し休憩を取りましょうか?」
「いえ、もう夜明けを過ぎました。陽が高くなる前に国境を越えてしまわなければ見つかってしまいます。急ぎましょう」
陛下と呼ばれたサークレットを着けた女は、質素な旅装束に身を包み疲れて力の入らなくなった華奢な手で必死に手綱を握り続けた。
白金の髪を一つに束ね頭巾を深く被り、彫刻のような美しい顔には汗と一晩中馬で走り続けた疲労がべっとりと滲んでいる。
とても麗しの女王には見えなくなったその横顔に、けれど凛々しく瞳に燃える強い意志だけは消えていなかった。