禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
―――国は、どうなったのだろう。
誰しもがその思いを抱きながら口に出せずにいた。
言ったところでそれが誰の胸も晴らさない事を知っている。皆、口を引き結び今はただひたすらに国境を越える事だけを考えていた。
けれど、5人の先頭を走るリヲだけはその思いにずっと後ろ髪を引かれ続けていた。
黒橡の瞳に開けていく森の道を映しながら、尚もずっと不安とすがるような祈りの色が浮かべて。
―――どうか、無事であってくれ。
どうか。どうか。
どこの神にどんな言葉で祈ればいいのかさえ分からない。
心を占める少女の現状を知るすべさえない。
今すぐにでも踵を返したい気持ちを押し留め、リヲは自分に言い聞かせる。
今は、陛下を守る事だけを考えるのだと。
自分は最後の希望を託された亡国の守護騎士なのだ、と。
硬く手綱を握りしめ、馬を走らせ続けた。