禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
その日の夕刻。
ギルブルク国へ向かう一台の軍用馬車。
ゴトゴトと乗り心地の悪い振動で頭に何度も鈍い痛みを覚えながら、アンの瞳はゆっくりと開かれていった。
「……う………」
ボンヤリとした視界がだんだん冴えてくると同時に、頭も覚醒していく。そしてそれは唐突に気を失う前の彼女の記憶を呼び戻した。
「…っ!!」
ガバっと勢いよく身体を起こしたものの不安定な揺れと自由の利かない手足のせいで、アンの身体はその勢いのまま今度は逆側に倒れ込んでしまった。
音をたてて打ち付けた体に痛みが走る。
「…くっ…!」
小声で呻くと
「元気のいい女だな。やっと目覚めたと思ったら飛び起きやがって」
すぐ隣から嫌悪でゾッと粟立つような声が掛けられた。
見たくはないが、現状を知るためアンは瞳に力を籠めて声の方を振り向く。
「大人しくしてな。こぜまい馬車の中なんだからよ」
馬車の木の床に倒れ込んだ姿勢のまま見上げた声の主は、ひとつにまとめた黒髪を揺らしながら深黒の瞳でアンを見下ろしていた。