禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
「…ヨーク…!」
目に映った存在の名を、アンは忌々しげに口にする。
同時にここが恐らくはギルブルク軍の馬車の中で、自分は手足を拘束されているのだと云う状況も把握出来た。
そしてそれはアンに、さっきまでの記憶と絶望的な結末を容易く予測させた。
―――捕まった。
自分は、敵に負けて捕まってしまったのだ。
そして、気を失う前に最後に見た光景は。
全てを覆い尽くす炎の竜巻と…自分を身を呈して守ってくれた…ミシュラの姿。
………負けた。
守れなかった。自分も。国も。未来も。
そして
「……ミシュラ……」
思わず茫然と呟いた名前に、ヨークが可笑しそうに応えた。
「ん?あの2番手の騎士か?アレはお手柄だったぜ。うっかりお前を焼き尽くしちまう所を身を呈して守ってくれたんだからなあ。まあ褒めてやりたくても今頃とっくにあの世だろうけどな」
ゲラゲラと卑下た笑い声をあげながら、ヨークは床に倒れ込んでいるアンの蜜色の髪を乱暴に掴んで自分の高さまで引っ張りあげた。
「おかげで聖女を無傷で手に入れられたってワケだ」
絶望の色を浮かべるアンの瞳を覗き込んで、ヨークは間近でその美しい顔を堪能する。
みるみる草色の瞳に溜まっていく涙に、ヨークは嬉しそうに口角を歪ませた。