禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~


「だろうな。情けねえな、一番知っていなくちゃいけねえ人類の守護国がこれだ。そりゃ守るものも間違えるし国だって壊滅するってもんよ」

問いに応えただけで自分の国を侮辱され、アンは怒りを滲ませながらキツく目の前の男を睨み付けた。

「はっ、恨むんなら無知な自分の国を恨めって言ってんだよ。聖女が在り続ける本当の意味を知ってりゃあ、国は総力をあげててめえを守った筈だ。そしてそれは、デュークワーズが聖旗と聖女と共に守り続けなきゃいけない歴史と知識だったはずだ」

薄闇の中、ヨークの瞳に映った灯りがゆらゆらと揺れる。まるで責任を投げうったデュークワーズの国家を否めるように。

そしてそこには僅かにも、狙われているにも関わらず国に録な護衛も着けて貰えなかったアンに対する憐れみも含まれていて、それを感じ取ったアンの中に屈辱的な気持ちが芽生えた。


「デュークワーズのふたつ名を知ってるか?『人類の守護国家』って言うんだぜ。1000年前に与えられたその重責と名誉ある名を、愚かなてめえの国は途中で隠蔽しやがったんだ」


…1000年前?

その途方もない数字に、アンの瞳が見開いた。


「そうだ。全ては1000年前から始まる。まだこの世界に…魔法が蔓延ってた時代だ」


闇に溶け込む漆黒の髪が風も無いのに揺れた。その語り自体に魔力が含んでいるかのように。

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