禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
「俺は昔、しがない考古学者をやっててな」
手の中の炎を生き物のように遊ばせながら、その妖しい灯りに顔を照らしてヨークは再び語りだした。
「城から支給される研究費目当てに、他のやつが行きたがらない危険な場所へすすんで赴いては、発掘作業をしていたもんだ。
そんな事を繰り返していたある日、俺は見つけちまったんだ。あの“黒い沼”でな」
ギルブルクの南にある湿地帯。鬱蒼とした森に囲まれた中央に、巨大な沼がある事はデューズワークでもよく知られた事だった。
地の底まで続いていると言われる果ての無い深さ。粘土の高い泥は一度足を踏み入れたら二度と抜ける事が出来ない。
沼は光さえ映す事なくただひたすらに真っ黒で、不気味な静けさを持ってただずんでいた。
生物どころかシダなどの植物さえ生えない生命の気配のしないその沼を人々は忌み嫌い、恐れ近付こうとする者はいないはずだった。
だが、敢えて人の近付かない場所を選んで研究を重ねていたヨークは、ある日そこで見付けてしまった。
―――“黒い鳥”らしきものの死骸を。
「すぐにおかしいって気付いたぜ。餌も無いこんな所にどうして来る鳥が居る?しかも見たこともない骨格をしてやがる」
疑問に思ったヨークの頭の中に突如声が響いた。
『捧げよ』
まるで目の前の不気味な死骸が喋ったかのように。