禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
薄暗い部屋に低く響いたその台詞は、アンの全身にギギギッと鳥肌を立てた。
「何を言ってるの…?封印なんか解いたら…混沌の王なんか甦らせたら、世界だってあなただってタダじゃすまないわ!!」
アンに詰め寄られてもなお歯を見せて笑うヨークの顔は、不気味に蝋燭の炎に映し出されている。
「…なんの為に俺がわざわざギルブルク王の元に着いてると思う?」
突如投げ掛けられた質問は予想外でアンには答えようもない。
不思議そうに瞬きをした碧の瞳を見据えながらヨークは更に声を低く響かせて言った。
「混沌の王が闇の精霊と契約を結ぶために捧げた贄は何百と云う生きた人間だったと言う。
ならば俺は…―――この国を、ギルブルク全ての命を闇の精霊に捧げる」
「………!!!!」
低く発されたその言葉に呼応するように、燭台の炎とヨークの黒髪が風もなく揺らめいた。
「俺ひとりでも進められる計画を、わざわざ王に取り入り国を巻き込んで進めてきたのはこの為だ。歴史を知らない馬鹿な王族共はせいぜい強大な軍事力が手に入るぐらいにしか思ってねえ。
封印を解放する日、国は王都で盛大な祝祭をあげる。ギルブルクが世界を制する足掛かりとなる日を祝してな。
国中の民が集い、口々に闇の名を讃える。―――それが、自らを捧げる呪い(まじない)だとも知らずに、な」
ヨークの凄惨な計画に、アンの体がカタカタと震えだした。顔からは血の気が引き冷たい汗が背中を伝う。