禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
「俺は混沌の王を超え、新たな闇の王となり世界を支配する。
そしてアン=ガーディナー。お前は俺と共に世界を覇権する運命にあるんだぜ」
あまりのおぞましい計画に戦慄するアンの耳に信じ難い言葉が飛び込んだ。
―――闇は光を、光は闇を。
新たな大地に君臨するは
太陽と夜の末裔、ただひとりの王。
闇が光を求め光が闇を求めるように
悠久の愛より生まれし、運命の子。
突然、ヨークの口から唄うように古語の詩が紡がれた。馴染みの無い筈の言語だが、聖女の力かアンには全てが理解できた。
「…『魔起創世』最終章の詩だ」
「魔起…創世…?」
「俺が世界中探し回って見つけた、唯一世界の本当の歴史が…暗黒の時代の事が綴られた書だ。
書いたのは人間じゃないかもしれねえ。隠世の事や精霊との契約、魔力の発動のさせ方まで書いてある。まあこれがあったから封印の解き方も分かったんだがな」
ヨークの言う通りそんな書がこの世界に残っていたとしたら、それはなんと愚かで恨めしい事だろうとアンは思った。まるで―――
「まるで神の悪戯、だな。
俺達に暗黒の時代をなぞれと言わんばかりだ。
その証拠にこの書には予言めいた事まで書いてある。…いや、未来自体が過去のなぞり直しなのかも知れねえけどな」
どこか皮肉めいた笑いで、ヨークは自分の言葉を噛み締めた。
「その悪戯に描かれた予言の最後がさっきの詩だ。もう分かるだろ」
――分かりたくない。けれど。嗚呼。
アンは落ちていく絶望に奥歯を強く噛み締め言葉を失った。
太陽の色をした髪が項垂れたアンの頬をサラサラと流れる。
ヨークが漆黒の髪を揺らめかせながら立ち上がりアンに近付いた。
「お前を最初に見たとき予言の運命に戦慄したぜ。
封印が解かれ新たになった世界に君臨する王は間違いなく―――俺とお前の子だ」
―――闇は光を、光は闇を。
新たな大地に君臨するは
太陽と夜の末裔、ただひとりの王。
闇が光を求め光が闇を求めるように
悠久の愛より生まれし、運命の子。
忌まわしい未来の詩が、アンの頭の中を巡り続けた。