禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
ずっと歪な兄妹関係だった。
妹を敵視しつれない態度を取り続ける兄。埋まらない溝。
けれど、ただ一度。たった一度。
ふたりをがんじ絡めにしている鎖から解き放たれて愛を謳った事があった。
鮮烈な静寂の森で。光と影と萌ゆる緑の世界で。
『……アン………』
黒髪の少年が切なそうに、けれど確かに幸せを滲ませながら少女を呼び続けた。求め続けた。
何度も口付けをされ、素肌に熱を落とされ、幼いはずのアンは小さな胸を歓びで震わせた。誰に教わらなくとも本能で愛を知った。焦がれ続けたものはきっとこれだったのだと頭の何処かで悟った。
---リヲ。
それはこの世のどんな媚薬より甘美でどんな音楽より美しい旋律。そして禁じられた罪深い、音。
その2文字を口にしてアンは自分の中に眠る女に気付く。兄を男として愛してる業の女として。
理由も意味も分からない。全てが本能だった。恋と云う衝動。愛と云う渇望。
けれど彼女がそれに目覚めたと同時に歓喜の時間は幕を閉じる。
後に残ったのはこれから永遠に続く禁じられた恋心だけだった。