禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
「よう、一晩考えて覚悟は決まったか?」
翌朝、そう声を掛けてアンの元に食事と水を持ってきたのはヨークだった。
眠ることも出来ずに疲労と絶望を滲ませたアンの顔はとても18歳の溌剌とした少女のものでは無かったが、それでも彼女の持ち合わせた美貌は充分に目を惹きつけるもので在った。
「まあ考えるだけ無駄だけどな。お前は俺に従う以外選択はねえ。拒んだところで辛い日々が長引くだけだぜ」
ガチャンと乱暴に皿を床に置いたヨークに、アンではなく見張りに立っていた兵士
が返事をする。
「女なんてちょっと身体に言い聞かせてやりゃあすぐ素直になると思いますがねえ」
「馬鹿野朗。犯しちまったら聖女の力を失って元も子も失くなるだろうが」
「本当、もったいない話ですよ。他の兵士もがっかりしてる、こんな上玉を輪姦せないだなんて」
へらへらと笑ってそう言った兵士の鎧を纏った腹に、ヨークは思い切り肘鉄を打ち込んだ。
鎧越しのはずなのに強烈に食い込んだ肘に、兵士が体をくの字に曲げて苦悶する。
「おい、ふざけた事を抜かすな。儀式が済んだところでこいつは俺の伴侶になる女だ。薄汚ねえてめえら下級兵士が慰み者に出来るタマじゃねえよ」
ゲホゲホと苦しげに吐き出す兵士に一瞥をくれながら、ヨークは自分の足で思い切り牢を蹴り飛ばした。その物騒な音にアンが一瞬ビクリと反応する。
「夕刻に返事を聞きにくる。素直に首を縦に振らなけりゃそのまま拷問室行きだ」
目の合ったアンにそう言い聞かせヨークはカツカツと足音を響かせながら廊下を去って行った。
「…ちっ、学者上がりがいい気になりやがって」
ヨークの姿が見えなくなってから、ようやく咳の治まった兵士が憎憎しげに呟き、それを聞いたアンは再び目を閉じて昨日の話を思い返した。