禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
――聖女の、力。
私の力。
それが秘めているものは本当に封印の解放だけなのか。
かつては“混沌の王”と対峙し封印に追いやったと云う光の力。
…本来なら私は、聖女は、もっと大きな力を操れるのではないのか。
思案を巡らせアンは運ばれた食事に手も着けず静かに目を閉じた。
視界を遮り自らの意識に集中すると身体の中に純白のエネルギーを感じる。
眩く鮮烈でありながら生命をいだく温かさを持った精霊の力。
その真白き力に意識を重ねると、激流のように突如アンの体に何かが満たされていった。
指の先、細胞の隅々にまで満たされたそれは白く眩く強烈で、そして。
――アン・ガーディナー。古の盟約に基づき光を抱えし女――
その力の意味に気付いたアンを悦びを以て迎え入れる温かいものだった。
夕刻。
ギルブルクの黄昏は不気味な赤色に染まっていた。
血の様に赤い空に鳥が黒い影となって泳いでいる。
「さあ、時間だ。覚悟は決まったか?従属か、拷問か」
チャリ、と牢屋の鍵を鳴らしながら、ヨークはアンを牢から出るように促した。
アンは無言のまま立ち上がると、目を伏せながらも大人しく指示に従いヨークや兵たちを驚かせた。
「……覚悟は決まったみたいだな。よーし、いい子だ」
ニィ、とヨークがわざとらしく目許を歪ませ笑う。
下卑た笑みを浮かべる男とうなだれたままの少女は冷たい石畳の廊下を、それぞれの思惑を抱えて歩いた。