禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
「ふん、ようやく余に従う気になったか」
再び眼前に連れ出されたアンを前に卑小な王はそう笑った。
「誓え。余に、ギルブルクに忠誠を誓うと。そなたの持つ力を全てこの王の為に使うと」
居丈高な言葉と共に左手は忠誠のキスを求め差し出される。アンは目を伏せたまま傅きそれに口付けを落とした。
「…………」
昨日までと打って変わって抵抗の欠片も見せないアンにヨークは密かに眉を顰めたが、王は美しい娘がその偉大なる力を持って忠誠を誓う姿にただ機嫌を良くするばかりであった。
「はっはっは!良い子だ!!さすが叡智の国の娘、自分の置かれた立場が一晩で理解できたようだな。
ようし、娘の気が変わらないうちに早々に事を進めるぞ。
儀式の準備を始めろ。次の満月の日に国を挙げて祝祭を行う」
しかし、一瞬怪訝に満ちたヨークの表情も王のその命令を聞いて消えた。
ヨークが新しき闇の王に君臨するための宴を、何も知らない愚鈍な王は国を挙げて用意すると高らかに叫んでいるのだ。彼にとって内心こんな愉快なものは無い。
「すぐに手配を」
ヨークは歪み上がった口角を隠すように、頭を王に向かって項垂れさせた。