禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
―――千年の昔に起きた光と闇の戦争。
その世界を揺るがすほどの戦いが再び起きようとしている。
聖女の、アンと云う少女の中で。
全ての闇を己の中に取り込んだアンは、それが牙を剥く前に光の力を解き放った。
己の肉体と精神を戦場にして、光と闇の戦いの苗床としたのだ。
それは常世からも隔世の理(ことわり)からも外れた、精霊にとっても未知なるものであった。
想像もつかない大きな力が少女の中でぶつかりあう。
アンの自我は散り散りにちぎれ常世と隔世をさまよい再び戻ることを繰り返した。
血液は沸騰し凍りつき汚染と浄化を重ね続けた。
時間の歪みはとこしえの時と刹那を円環させ、彼女の脳を停止させる。
代々継がれてきた聖女の魂を己の中で輪廻させ、光と闇の歴史が彼女の中で繰り返される。
「……何が、起きてるんだ?」
世の理を越えた存在のアンを、ヨークは、そこに集っていた人間は捉える事が出来なかった。
ただ白と黒の霧の入り混じる空間に触れ得ぬ何かが『在る』という事しか、認識できなかった。
――アンの中で、人の感覚では計り知れぬ時が流れた。
彼女の魂も肉体も数え切れぬほど朽ち果て、そして蘇生された。
千年前と同じく終わらないように見えた戦いに、終焉の采を投げたのは
―――…………リヲに会いたい…………―――
ただひとつの、少女の願いだった。