禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
同時刻、アラカレード王国西部市街地。
「………っ!!?」
質素な衣装に身を包み、白金色だった髪を朽葉色に染めたかつての女王は突然、身体に内なる衝撃を覚えて床へ崩れ落ちた。
「レナ様…!?」
駆け寄ったリヲもまた、かつての騎士には見えない質素な衣装を纏い、薄鈍色の髪を黒く染めデュークワーズでの名を隠していた。
「…シヲン…、大丈夫よ」
苦しそうに息をしながらも、ヴィレーネはリヲに支えられながら立ち上がり、椅子へと連れられ腰を下ろした。
国外への逃亡に成功したヴィレーネ達は、遠縁の者やかつてのデュークワーズの者たちの協力を経てアラカレードの街で正体を隠しながらひっそりと過ごしていた。
デュークワーズがどうなったのか、諜報の者から報せを聞くたび胸を痛めながらも、今はひたすらにギルブルクから身を隠すことが得策なのだと自分に言い聞かせ、ヴィレーネはアルカレードの市民を装って身を潜めて過ごしていた。
そうして幾日かが過ぎ、そんな生活にも慣れてきた時だった。
西部の空に暗雲が立ち込め、ただならぬ胸騒ぎが彼女を襲ったのは。
遥か西のギルブルクで混沌の王の封印が解かれた時、ヴィレーネもまた人類の守護国の王家の末裔として、光の力を授ける権限を持った一族として、ただならぬ気配をその身に感じていた。
けれど、何が起きているのか確かめようも無いまま、ギルブルクではアンが光と闇の力を両方消滅させ、それはヴィレーネの、デュークワーズ王家の持つ力をも消し去ることとなった。
生まれたときから抱え続けてきた王家の光の力を突然失い、ヴィレーネはその感覚に刹那脱力した。
けれど、やがて息が整うと、彼女は何かとても大きな責務から解放されたような安堵と…今まで受けていた加護を失ったような、そんな不安を覚えた。
呆然と晴れて行く西の空を窓から見上げるヴィレーネに、リヲがそっと声を掛ける。
「……どうかされましたか?」
けれど、ヴィレーネはその感覚を上手く伝える自信が無く
「なんでもないわ…」
満月の明かりに目を細めながら、そうとだけ答えた。