禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
同時刻、ギルブルク。
大掛かりな世界征服への計画を潰され、大観衆の前で面目を丸潰れにされたギルブルク王の怒りは凄まじいものであった。
「その女の首を撥ねろ!!いや、八つ裂きだ!今すぐこの観衆の前で八つ裂きにしろ!!」
狂ったように喚く王の命令を執行しようと兵が意識を失ったままのアンに駆け寄った時
「ちょっと待ちな」
それを止めたのは、自らもアンのせいで力を失ったヨーク=レストログであった。
「ヨーク!!貴様とてただじゃおかんぞ!これだけ労力を掛けた作戦を失敗しおって!!貴様もその女同様、この場で死刑だ!!」
王の言葉にヨークを捕獲しようと幾多の兵が槍を向けた。しかし、ヨークは怯む事も無く手に持っていた古びた本を王に向け見せ付けるように振ると
「お忘れですか?陛下。『魔起創世』の事を。こいつにはまだたんまりと他の国が知らない魔術や精霊、予言の事が書いてある。そして、古の言葉で書かれたこの本を解読できるのは、世界で俺一人だけだ」
蝋色の瞳をニタリと歪ませて言った。
「こいつがあればギルブルクはまだ世界を支配出来る手立てがある。
陛下、焦らないで下さい。たかだかひとつ作戦が潰れただけだ。方法は他にもある。
そして、この女の使い道も、な」
ヨークの余裕に満ちた言葉に王は口を噤み兵は槍を構えたまま往生する。
そして、そんな周囲を一瞥しながらヨークは倒れているアンの元まで行くと、ぐったりと力の抜けているその身体を自分の腕へと抱えた。
「……まだだ。まだ可能性はある。この女が居ればな…」
低く呟かれた並々ならぬ決意を籠めたその声は、意識の無いアンの耳に届くことは無かった。