禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~

ヨークの言葉を聞いて、アンの中に悲しみがいっぱいに満たされる。

まだこの男は、この国は私に何かさせる気なのだと。
あれだけ苦しい思いをして命を掛けて世界を守ったのに、自分はいつになったら救われるのかと。

しかし、そんな悲しみに暮れるアンに更なるおそましい宣告がヨークから告げられた。


「てめえはこれから俺の子を孕み産むんだよ。そのためだけに生かしてやってる事を覚えておきな」


アンは耳を疑った。
死刑宣告より残酷なその言葉にアンの表情が固まる。

そんなアンの心中に構わず、ヨークは言葉を続けた。

「――闇は光を、光は闇を。
覚えてるか?あの詩だ。あの予言の詩が、今この国でお前の首の皮一枚つないでる最後の希望だ」

いつか聞かされた忌まわしい詩。アンの脳裏に絶望の色と共に蘇る。

「闇の力は手に入れ損ねたけど、まだ世界を手中にする可能性がなくなった訳じゃない。『魔起創世』には他にも今では失われた魔法の力についても載っていた。それにこれから先の世界の行く末を示すような予言も。それだけありゃもう一度世界征服を目指すのも難しくは無いはずだ。
…もっとも、闇の力を失ったせいで古語の解読が出来なくなっちまった事は王には秘密だけどな」

ヨークは皮肉めきながら笑って言った。

「まあ時間は掛かるが追々解読はしていく。元もとの俺の研究分野だ、難しくはない。
けどな、俺にとってそれより確実なのはあの予言の詩だ。俺は確信してる。あの詩はこのヨーク=レストログとアン=ガーディナーの事を記したものだとな」

「……嘘よ、そんなの!!何の確証もないじゃない!!」

「お前が幾ら否定しようとも俺は闇を有した男でお前は光を有した女、あの予言にもっとも近い存在だ。それが正しいかどうか、試すしかねえじゃねえか」



―――闇は光を、光は闇を


新たな大地に君臨するは

太陽と夜の末裔、ただひとりの王

闇が光を求め光が闇を求めるように

悠久の愛より生まれし、運命の子



――……いや……いや、いや…!!


アンの脳裏に神々の悪戯の詩が反響する。


「お前にとっても悪い話じゃねえ。今は罪人扱いだが俺の子を孕んだらこの牢から出して正妻として迎えてやる」

「…いや……いや…」

「せいぜい可愛くしといた方が自分のためだぜ」

「いやっ!!!触らないで!!」


アンの長い髪をゆるく引いた手を、彼女は強く振り払った。

払われたヨークの左手の甲に、赤くなったミミズ腫れがすぐ浮かぶ。

ヨークはそれを見るとゆるりと口角をあげて笑い、鉛色の眼差しでアンを捕らえて言った。

「たまらねえなあ、気の強い女は。
そのプライド、ズタズタにしてやるぜ」



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