禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~


――自分は、何を守りたかったのだろう。


更けた夜の空を窓から見上げながらリヲは宛てどなく問うた。

母国も守れず、ただ女王を逃がし……そしてこの期に及んで尚、ヴィレーネと子を成さない自分の意義を、リヲは完全に見失っていた。


カタリ、と、納戸に隠してある自分の剣を取り出し、鞘から抜いて、その刀身を月に掲げて見た。

月光を反射して鈍く光る刃。そこに自分の顔が映りこむ。

リヲは、この剣を国王から受けた日の事を思い出していた。


――騎士よ、誇りを持て。
そなたの刃が守るは
国が紡ぎし歴史
人が紡ぎし命
神が紡ぎし物語なのだから


俺は、何を守りたくて騎士になり、この刃を手に取ったのだろうか。

騎士として生涯の忠誠を誓い、賜った誇り。
国で一番の騎士になると言う幼い頃からの望み。
守ると誓った、祖国のたったひとつの最後の希望。

今ここに湧き上がる衝動の前に、皆、霞んで行く。


「………アン………」


消え入るほど小さく呟いたその名の前に、『亡国の守護騎士』の誇りが、崩れ去っていく。


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