禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~



それは、三日後の夜だった。


「馬も手引きの者も準備出来ました。……医師の心得を持つ者も控えさせてあります」

「ご苦労だった」

「しかし……あまりにも危険です。救出は我々に任せてリヲ様は待機されていた方が」

困ったように咎める間者に向かって、リヲはふっと表情を弛めた。まるでこれから行う事になんの恐怖も感じていないかのように。

「待っているんだ、あいつが。これ以上、待たせる訳にはいかない」


――ずっと、待たせていた。

彼女の好意に背を向け逃げ続け、最後の最後まで置き去りにした。

それでも、きっとアンは待っている。

兄が――リヲが助けに来てくれるのを。


穏やかに、けれどゆるぎない決意を籠めた瞳のリヲに、間者は自らも覚悟を決めると

「……どうか、無事にアン様を救い出して来てください。
ギルブルク南の沼を越えた森の小屋に、医師と世話係を待機させておきます。ひとまずそこでアン様の回復を図って、それからアルカレードへ越国して下さい。…お二人の無事なお戻りをお待ちしています」

そう言って、ヴィレーネの部屋へ入って行くリヲに頭を下げた。


< 253 / 271 >

この作品をシェア

pagetop