禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
それは、三日後の夜だった。
「馬も手引きの者も準備出来ました。……医師の心得を持つ者も控えさせてあります」
「ご苦労だった」
「しかし……あまりにも危険です。救出は我々に任せてリヲ様は待機されていた方が」
困ったように咎める間者に向かって、リヲはふっと表情を弛めた。まるでこれから行う事になんの恐怖も感じていないかのように。
「待っているんだ、あいつが。これ以上、待たせる訳にはいかない」
――ずっと、待たせていた。
彼女の好意に背を向け逃げ続け、最後の最後まで置き去りにした。
それでも、きっとアンは待っている。
兄が――リヲが助けに来てくれるのを。
穏やかに、けれどゆるぎない決意を籠めた瞳のリヲに、間者は自らも覚悟を決めると
「……どうか、無事にアン様を救い出して来てください。
ギルブルク南の沼を越えた森の小屋に、医師と世話係を待機させておきます。ひとまずそこでアン様の回復を図って、それからアルカレードへ越国して下さい。…お二人の無事なお戻りをお待ちしています」
そう言って、ヴィレーネの部屋へ入って行くリヲに頭を下げた。