禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
「リヲ様!!急いで手当てを!!」
廊下で待機していた間者の男は、リヲの押さえた右腕から血が零れ続けるのを見て、急いで別室へ連れて行った。
部屋には医術の心得のあるものが待機していて、大急ぎでリヲの腕の止血を始めた。
「よく気を失わずにいられましたね。痛みもだけど随分血が流れてる。下手をすれば朝を迎える前に出血死してしまいますよ」
けれどリヲは止血が済み、腕に包帯が巻かれ終わると、立ち上がって出発の準備を始めた。
「リヲ様!安静にしていないと生命の保証はありませんよ!」
「かまわん。明日の朝まで生きていれば充分だ。時間が無い。出発する」
治療した者の静止を振り切って部屋から出たリヲを、間者の男は慌てて追いかけていった。
屋敷の裏手には馬が用意され、マントに身を包んだ手引きの者が二人待っていた。
「リヲ様…その腕は…!?」
「何でもない。それより急げ、出発するぞ。ギルブルクまでの案内を頼む」
肘から下を失い青い顔をしたリヲを見て、手引きの男たちは眉を顰めたが、リヲは構わず馬に跨ろうとした。
しかし、左手だけでは当然まだ慣れずバランスを崩す。
それをすぐさま支えたのは間者の男であった。
「…すまないな」
「いえ、私が貴方に…アン様の為に出来る事はここまでです。
……リヲ様、私はかつて貴方の団の端くれで、大戦が始まる前にアン様と訓練を共にさせて頂いた事があります。
彼女は明るく、美しく、強く…第一騎士団全ての憧れでした。彼女の姿に勇気をもらった者も少なくありません。
リヲ様…どうか、アン様をお救い下さい。例え騎士でなくなったとしても、貴方とアン様は我々の憧れで誇りです。お二人の無事な帰還を、生き残った第一騎士団全員、心より祈っております」
そう話した間者の支えてくれた手を離し、リヲは左手で手綱を握るとふっと口角を上げた。
「任せろ。必ず救って来る」
月明かりに黒髪を揺らし、リヲは二人の手引きの男に着いて馬を出発させた。