禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~



【拝啓 親愛なる兄さんへ



兄さん、お元気でしょうか。
早いものであれから5年の月日が経ちました。


残念なことにあれから兄さんの消息を私は掴めていません。

いえ、きっと私だけでなく誰一人として貴方がどうなったかを知る人はいない事でしょう。


腕を失ったまま無理をしてそのまま行き倒れてしまったのではないか、と言う人も居ます。
ヴィレーネ女王の下に戻って処刑されたのでは、と言う人もいました。


けれど、あの日。
兄さんが私を救いに来た日にヴィレーネ女王が突然消息を絶ってしまった事で、その真実は分からぬままです。


ただ、どんな噂が立とうとも、私はリヲ=ガーディナーが生きていると信じています。

私だけではありません。
ミシュラも、元第一騎士団の面々も、貴方を信じ無事を願ってくれています。


どこで、どんな姿でもいい。

兄さん。私は貴方に会える日を夢見て信じています。



さて。今、私はアルカレードのはるか南、ルシア共和国の港町の宿からこの手紙を書いています。

何故そんなところに居るのかって?

それは、先月この町の酒場で片腕の無い剣士を見たと言う情報を得たからです。


あれから私は貴方を探し続け、世界中を旅し、こうしていつか渡せる手紙を綴っています。

もう5年も経ちギルブルクの追っ手が躍起になって私たちを探すことは無いけれど、黄金色の髪は少し目立ちすぎるので、朽葉色へと染めて元の身分も隠し、世界を転々としています。


息子のソルは先月4歳になりました。

貴方に似た黒髪の、とても利発な子供です。

母親の私が言うのもなんだけど、とても聡明で、一緒に世界中を旅しているうちにあちこちの言語を習得してしまったのよ。

きっと大きくなったら賢くて強い騎士になれる事でしょう。

早く貴方に会わせてあげたいです。



さて、もうすぐ夕刻。情報で聞いた酒場が開く時間です。

今日こそ貴方に会える事を信じて、ソルと一緒にこれから窺おうと思います。

いえ。
なんだか今日こそ貴方に…私のたった一人の愛しい男(ひと)に、会える予感がします。


どうか、その時はもう一度この私を抱きしめて下さい。


それでは。




アン=ガーディナーより】







――ギルブルクのデュークワーズ統治はこの後、わずか8年で幕を閉じた。

元よりヨーク将軍の闇の力に頼って戦争をしてきたギルブルクは、その力を失った後でも強気な他国への侵攻を止めず、強豪国の返り討ちにあって自らの国ごと崩壊させた。

国を失ったデュークワーズの地はその後数十年、植民地として様々な国に狙われ支配され混沌とした歴史を繰り返した。

そして120年の歴史を刻んだとき。

秩序を失くしたその地を統治し、新しい国を築く若者が現れた。

レイ=ガーディナー=ソル=デュークワーズ。

まごう事なきデュークワーズの血を引く、夜色の髪を持つ男であった。


王は歴史を説いた。

かつてこの世界に二度の闇による滅亡の危機が訪れた事を。

そして、それを打ち破った勇敢な少女の事を。


かつての亡くした国を再建し、その血と人々が忘れた光と闇の歴史を守り蘇らせた王を、民は希望と悦びの念を以てこう呼び迎えた。


『亡国の守護騎士』と―――






fin



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