禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
そして今も。
アンは休日でさえこうしてリヲに気を使い悲しいまでに従順であった。
「いざとなったら今度こそ僕が庇ってあげるから、アンはもっとリヲに反抗していいんだよ。君は誰が見たって十分にやっているんだから」
けれど、心底アンを心配するミシュラに、彼女はただ不思議そうな顔を向けるのであった。
「私、兄さんをおっかないと思った事も理不尽だと思った事も一度も無いわ」
純粋に吐き出されたその台詞に、ミシュラは虚を衝かれたような顔をした。
「言い方は確かにキツいけど、兄さんは昔から間違った事は言わないもの。それに私」
そこまで言ってアンはベンチから立ち上がると、聳え立つ城の塔を真っ直ぐと見つめながら言った。
「あのひとを、誰より信頼してる」
黄金の髪を風に靡かせ、迷いの無い若草色の瞳を瞬かせた横顔は凛と美しく。
ミシュラはしばらくその横顔に見惚れていた。