禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
「ああ、疲れた」
全ての式典を終え、アンがそう溢したのは夕べの宴が終わった後だった。
ヴィレーネ始め、再び諸侯らに挨拶をしてから宴の会場を後にすると扉の前で一人の女が待っていた。
「お疲れさまです、アン様。アン様のご住居は今日から聖旗の塔になりますので案内致しますね」
肩で揃えた榛色の髪に同じ色をした大きな瞳、いかにも陽気そうな弓なりの眉毛を持った女はそう言ってアンに微笑み掛けた。
サラ=ヴィシャス。聖旗守護騎士団の副長でもあり、これからアンの世話係にもなる人物である。
叙任式の後紹介されてからサラは一日中アンに付き添い彼女をサポートした。鎧の着脱を手伝いパレードの先導を担い、様子を見ては疲れてきたアンに茶を淹れ。そして今も式典を終えたアンを部屋へと案内する。
「ありがとう、サラ。今日は貴女がいてくれたおかげで本当に助かったわ」
アンはサラと二人きりになった事でようやくホッと安堵の息を吐いた。
何もかも堅苦しい式典、厳格な諸侯たちが目を光らせ大勢の民に羨望の眼差しを向けられ。今日一日のアンの緊張は計り知れない。
その中にあって歳が近く屈託無い笑顔を向けてくれたサラの存在は大きい。
アンは偽りなく心から感謝の気持ちを籠めて言った。