禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
「カッコ良かったねえ、新聖乙女殿は」
騎士団の宿舎、夜の食堂でミシュラは葡萄酒を片手にリヲに話し掛けた。
陽気なミシュラと反対にリヲは何の表情も浮かべずただ黙ってゴブレットを傾ける。
「堂々としていて凛々しくて。やっぱりガーディナー家の血かねえ、君の叙任式の時を思い出したよ」
リヲは答えない代わりに眉間に皺をひとつ刻んだ。
「相変わらず嬉しくないみたいだね、妹の叙任が」
ミシュラは少し声のトーンを落とすと自分のゴブレットをコトリとテーブルへと置いた。
「お飾りの騎士団長に担ぎ上げられてみっともない…だっけ、君の言い分は」
そう呟くように言ったミシュラに、リヲがわずかに眉を上げる。
「お飾りなんて言ってる場合じゃないみたいだね」
「…聞いたのか」
「御祭り騒ぎの最中、伝令が青い顔して駆けてきたもんでね。一足先に耳に入れさせてもらったよ」
もうミシュラの顔は笑ってなどいない。リヲと同じく眉間に深い皺を刻ませている。
「……ギルブルクが、首都へ攻め込む準備をしているとの情報がさっき入った。間もなく総員に戦闘配備の命が下される」
吐き出すように言ったリヲの持つゴブレットの葡萄酒には小さな波紋が立っていた。
「…アンも配備に着くのかい?」
ミシュラの質問にリヲは答える事も頷く事もしなかったが、苦しそうに引き結んだ口元が答えを語っていた。
新生の聖旗守護騎士団長の誕生と共に舞い込んだデュークワーズ最悪の報告に、ミシュラは忌まわしい偶然を呪った。
翌日。
ヴィレーネ女王は全騎士団に緊急召集を掛けギルブルクを迎え撃つべく戦闘配備の命を下した。
そこには、リヲの予想通り昨日と同じく純白の鎧に身を包んだアンの姿もあった。