スイートペットライフ
***

「えぇ―!エバースターの社長に飼われてる?」

お箸を持つ手が止まった佐和子先輩が目を見開いたまま、外まで聞こえるんじゃないかって言うぐらい大きな声を出す。

「しー!」

あわてて顔の前で人差し指を立てて、静かにするようにお願いする。

このところの惨状に耐えられなくなった私は、佐和子先輩に事情を説明することにした。

「くっ……、くっ、あーはっはっ!」

目の前の佐和子先輩はおなかを抱えて笑っている。お弁当なんてそっちのけ。そのうち目に涙まで浮かべはじめた。

泣きたいのはこっちなのに。

「もう、本当に笑いごとじゃないんですよ」

両頬を膨らませながらも器用にお弁当を食べる私。悔しいけれど、大倉さんのお弁当はおいしい。

「いやー、ごめんごめん。美空がそんな面白い事に巻き込まれているなんて知らなくてさ」

「面白くなんてありません。人ごとだと思って!」

私は怒りにまかせて、ばくばくとそぼろご飯を口に運んだ。

「いやー美空のお母さんもすごいけど、まさかあの大倉さんがそこまで残念な人だなんてね」

「佐和子先輩、大倉さんのこと知ってるんですか?」

ふと疑問に思って聞いてみる。

「知ってるっていうか、ちらっと見ただけ。去年はわりとうちの事務所にも来てたでしょ?」

「そうなんですか?私全然知らなくて。だからはじめて会ったときも営業の人だとばっかり思ってたんです」

「大倉社長が来た時あれだけ所内の女子が騒いでたのに、気が付いてなかったの?」

コクリと頷く私に、「はぁ~」とあきれ顔でため息をつかれた。

「美空はもうちょっと、周りがどういう風に動いてるか見たほうがいいよ。鈍すぎ」

確かに佐和子先輩の言うことも一理ある。

その時に大倉さんの顔を覚えていれば、今こんな状況にはなってないはずだ。

自分のうっかりにがっかりしながら、ランチタイムは終了した。

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