スイートペットライフ
「ミィ?」

肩で息をしながら、私の名前を呼んだ。その声は今まで聞いた大倉さんの声の中で一番か細くて頼りないものだった。

「大丈夫ですか?」

顔を覗き込み、額に汗ではりついた髪をどかしてあげる。

すると目をぎゅっと閉じた後ゆっくり開いて、いつもの笑顔を見せる。

「心配させてごめん。もう大丈夫」

そう言う大倉さんの顔は全然大丈夫じゃない。

「無理に笑わなくていいですよ。辛いときは辛い顔してください。癒しはペットの専売特許ですから」

二コリと笑いかけると、力ない笑顔が返ってきた。

「じぁあしばらくこのまま手を握っていてくれる?」

そう言って、私の右手を両手で包むように握りしめた。

「もう、今日だけですからね」

私はベッドサイドに座り手を握られたままにした。

そのまま、大倉さんは目を閉じた。しばらくすると私の手のひらを大倉さんの綺麗だけれど骨ばっている手が私の手のひらをこちょこちょしてくる。

「もう、やめてください、ふふ、くすぐったいです」

こそばゆくて肩をすぼめながら言う。

手を引こうとすると、強く握りしめられて逃げられない。

何度か繰り返されて、私は手のひらの感覚が何かを描いているのに気が付いた。

ん?ハート?

もう一度描かれたときに確認する。

やっぱりハートだ

大倉さんは何度も私の手のひらにハートを描く。目を閉じたまま、何度も。

私は、大倉さんから手のひらに沢山のハートをもらったあと、今度は大倉さんの手を握り返して、その大きな手のひらに、一つハートを描いた。

すると、目をつむったままの大倉さんの口角がきゅっとあがってうれしそうにした。

そしてそのまま、穏やかな寝息を立てはじめた。

どうして、こんな行動をとったんだろう?でもああするのが一番だと思い、突き動かされるままにそうした。
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