スイートペットライフ
会社が静かだと余計なこと考えてしまうな。さぁ仕事しなくちゃ。

マグカップのコーヒーを飲みほして、仕事に集中した。

そんな時に電話が鳴った。いつもなら他の人が取ることも多い電話だけど、今日は人が少ないから、ほとんどの電話を私が取っていた。

「はいわかば税理士法人でございます」

メモを取れるようにボールペン片手に受話器を持った。

「三橋興産――三橋です」

背筋にぞわぞわした感覚が走り、鳥肌がたった。

短いその一言を耳にしただけだというのに。

「――もしもし、青木さん?」

間違いなくあの人だ。しかも声を聞いただけで私ってばれてる?

大丈夫落ち着け。電話では不躾な視線も、ボディタッチもできないんだから、ドーンと構えるのよ!美空!

「失礼しました、三橋課長、ご用件をお伺いします」

努めて冷静に対応したつもりだけど、受話器を握る手が汗ばんでいるのが分かった。

「夏休みの人が多いのに、青木さんは出勤していたんだね」

人が少ないのを知っていて電話してきたってこと?普段は佐和子先輩が応対を代わってくれているから、いないのを予想してかけて来た?

その粘着質な感じに、再度鳥肌が立つ。


「はい、順番に夏休みを取るので。で、今日はどうしましたか?」

「どうって、青木さん元気かな?って思って。最近お話してなかったから」

そりゃそーだ。あなたを避けまくっていたからね。

「それなりに元気にしております……」

これ以上話すると正直な左手が受話器を置きそうになる。

そこに電話が鳴り響いた。
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