スイートペットライフ
業務終了時刻間際に入った仕事で、残業をすることになった。

人数が少ないから仕方ないものの、もっと日中のゆったりした時間に言ってくれればよかったのにと思いながら、帰る準備をして事務所をでる。

駅までの道はお店も多いし、街灯もちゃんとある。いつもと同じ道だ。

だから特別気をつけたことなんて今までなかった。

そしてそれを今日初めて後悔した。

「ひぃ!!」

目の前の電信柱の陰から街灯に照らされた、三橋課長が私をみつめて“にやり”と笑っている。

その顔は会社で見た顔とは違って、暗くて陰湿なイメージをうけた。

思わず私は一歩後ずさるがそれを感知してか、素早く三橋課長が私のまん前まで来る。

「や~っと会えた。遅いよ。待ちくたびれた」

いやいやいや、誰も待ってなんて頼んでないし、むしろ逆だし。

でも相手を刺激してもきっと良くないことが起こる。この手の表情をしている人は少し現実が見えなくなっている場合が多い。

「あの、どうかしましたか?」

気のきいたセリフも出てこない。

「青木さんに会いに来たんだよ。お話できるところまで移動しよう」

そういって、路肩に停めてあった車に私を誘導しようとする。

ひー!車とか無理無理!絶対無理!

焦って次の手を考えようとしていた私の手を、三橋課長が握りぐいぐい引っ張る。

ヤダ!触らないで。

そう思って激しく手をゆするも、ぎゅっと握られて離れそうもない。

引っ張られる上半身と絶対動かないと鉄の意志を持つ下半身の間で私の身体が引き裂かれたらどうしようなどとしょうもないことを考えていたときに、怒気をはらんだ声が響き渡る。
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