スイートペットライフ
「いや~カタブツの健君が女の子連れて来たって聞いたから『幻だろ!?』って思わず叫んだよ。厨房で」

ニヤニヤしながらバンダナの彼が話す。

「お、お前余計なこといってんじゃねーよ」

焦った諏訪君がいつもの職場の彼とはまた違って見えて新鮮。

「お前もう仕事に戻れ。ビール二つな」
「わかったわかった。ひひひ~今日は仕事上がりのビールが美味いだろうな~」

そんな風に、なおも諏訪君をいじろうとする彼を、諏訪君は無理矢理立ちあがらせた。

「青木、好き嫌いなかったよな?」
「うん」

首を縦に振る。

「じゃぁ、後は適当におすすめのを」

そう言うと立ち上がったバンダナの彼の太ももあたりを諏訪君がグーでパンチしていた。
彼がすっかり厨房に入ったのを見届けて私にクルリと向き直った。

「ごめん。なんか騒がしくて」

そう言った諏訪君のはにかんだような笑顔も新しい発見だった。

「ううん。諏訪君っていつもしっかりしているけど、実は同じ年だもんね」
「何それ?俺がふけてるってこと?」

と眉を寄せた。

「ううん。違う違う。普段はすごくしっかりしてるってことだよ」

顔の前で手を左右に手を振って否定はするが、意外な彼が見えたことでテンションがあがったのか笑いがこらえられない。

「うるせー。俺だって必死なんだっつーの。先生なんて呼ばれているけど、大したことない若造だって自覚は十分あるんだから」

少しトーンを落とした声でそう言った。

「そんなことないよ。私諏訪君との仕事やりやすいよ。適度に頼ってくれるのもうれしいし。以前よりずーっと仕事が楽しくなった」

私の言葉を聞いた諏訪君の表情が変だ。顔赤い?

「ちょ、お前いきなり何言っているんだよ。そんなことはだな――」
「はいはい、盛り上がっているところ失礼しますよ~~」

諏訪君のセリフを遮って、ビールとお通しがテーブルに置かれた。

「おまえ、わざとだろ~」

ビールを運んできたバンダナの彼を諏訪君が睨んでいる。「何のことだろ~」と言いながら厨房へ消えて行ったバンダナの彼の背中を諏訪君は睨みつけていた。
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