スイートペットライフ
私が笑顔で答えると、頭を“くしゃ”っと撫でられてそのままエレベーターへと向かって行った。

その触れた指先が優しくて思わず胸が“きゅう”っとなってしまう。

諏訪君にとっては何でもないことかもしれないけれど、女としての戦闘能力も恋愛能力も低い私にダメージをあたえるのには十分だ。

こんな風に私のことをストレートに思ってくれる彼。間違いなく素敵な彼なのに私は何で彼の気持ちにまっすぐに向き合うことができないんだろう。誰に相談しても、もちろん自分の中でも正しいと思う道は決まっている。なのに私は別れ道でその先に進むことができない。

答えの出ないまま、一人その場所に立ちつくすことしかできない。


今日も二人で食事に行き駅まで歩いていた。
人気の少ない場所でふと諏訪君が立ち止まる。

「どうしたの?」

急にアルコールが回って気持ち悪いのかな?
そんな風に思った私は諏訪君の顔を覗き込む。

「っ…う」

口元を手の甲で押さえている。瞳もうるんでいて心配になった。

「気分でも悪いの?」

私が諏訪君に触ろうとした瞬間その腕を引かれて、気が付いた時には諏訪君の腕の中だった。
彼の香水のラストノートだろう。淡いムスクの匂いに包まれた。

細身だと思っていた身体はやっぱり男の人の身体で私はすっぽり包まれていた。

「急にごめん。明日からもちゃんとお前の気持ちを待てるように、ご褒美ちょうだい」

そう言うとさらに私を抱きしめる腕に力を入れた。

「ちゃんと待つって言ったのに、俺かっこ悪いな」

彼がそう呟いた。
何て答えたらいいのか分からなかった私は、とりあえず顔を左右に振って彼の言葉に答えた。

こんな風な思いをさせているのは私だ。そう思うとせつない。

優柔不断で自分の気持ちさえも分からない自分が心底嫌になったそんな瞬間だった。

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