スイートペットライフ
今日も送って行ってくれるという諏訪君の申し出をやんわりと断り、電車に揺られてマンションに帰って来た。

リビングのドアを開けると、大倉さんがすでにシャワーを浴び終えたのかTシャツとスエット姿でビールを飲みながらテレビを見ていた。最近は戻ってくると、自室で仕事をしていることが多かったのでちょっと驚いた。

「ただ今戻りました」

ドアを閉めながら声をかける。

「ミィちょっとこっちに来て」

呼ばれて素直に近付くと、ソファに座っている大倉さんの前に立つように言われて素直に従った。

座っている大倉さんの顔は私の鎖骨あたりにある。そこから何かを確認するかのような双眸がそこにはあった。

そしてその目をゆっくり閉じると、鼻をクンクンさせはじめ、私の体中をクンクン。

右に行ってクンクン。左に行ってクンクン。

「ちょっと…どうしたんですか?やめてください」

私は大倉さんの額を両手で押して距離を取る。
すると大倉さんは羨ましいぐらい長い睫毛をパタパタさせて何かを考える。

「違う……これはミィの匂いじゃない」

一言そう言って私の両肩を持った。

「正直に言いなさい。これは誰の匂い?」

真剣な顔で問いただされる。
に、匂い?お酒の匂いについて言われるならまだしも『誰の匂い』かって……。

「今まで誰といたの?」

驚いて戸惑っていると大倉さんが、私が答えやすい質問に変えて来た。こういうところ策士だと思う。

「事務所の同僚と、お酒を飲んでいました。――でもちゃんとご飯はいらないって連絡しましたよ」
「連絡の有無を言っているわけじゃないんだ」

口調は穏やかだけれども、目が私を責め立てている。

「じゃあ何がいけなかったんですか?」
「こんなに男の匂いをプンプンさせて帰ってくるなんて!ま…まさか!!!」
「え?」

大倉さんの驚愕に驚愕を重ねた顔が私の目の前に迫ってくる。

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