スイートペットライフ
―――まさかの事態にその気合も吹き飛ぶ―――

な ん な の こ れ?

私は今までしたことないぐらいの瞬きを高速で繰り返した。そんなことしても目の前の事実は何も変わらないけれど。

午後私は休憩から戻ると、諏訪君と一緒に所長室に呼ばれた。

何これ?前にも一度経験したような……。デジャヴ?

何だか嫌な予感がするのは私だけではないようで、諏訪君も苦笑いを浮かべながら私とともに所長室に向かった。

「失礼します」

諏訪君がノックをして声をかけて中に入る。

私も「失礼します」と声をかけて、一歩所長室に足を踏み入れる。ソファには所長のほかにお客様が。

――あのスーツ。それにあの靴。そしてあの綺麗な黒髪は……。

私の答えが出る前に、彼がこちらに顔をむけて“にっこり”と笑った。

私、めまいがするんですが気のせいでしょうか?まさか大倉さんがこんなところに現れるなんて。

入口で事態の衝撃にふらふらしていた私は、所長に呼ばれたのも耳に入ってなかった。

諏訪君に「青木」と声をかけられて我に返り、とりあえずソファに座った。

目の前でニコニコ座る大倉さん。一体何を考えているのかさっぱりわからない。

「こちらエバースターの社長で大倉さん」

所長が紹介してくれる。いやしてもらわなくても十分知っています――とは言えない。

「諏訪です」

短く諏訪くんが自己紹介をしたので私も続いた。

「はじめまして。青木です」

『はじめまして』とわざわざ言った意味に大倉さんが気づくことを祈って。

大倉さんは不機嫌そうに目を少し細めたが、一瞬で顔を元に戻した。
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