スイートペットライフ
「は・じ・め・ま・し・て、エバースターの大倉です」

わざと『はじめまして』を強調した言い方に頭を抱えたくなる。

思わず俯いて膝の上に置いた手を見つめる。

「急に呼び出してごめんね~実は大倉さんたっての希望で、来月からエバースターの担当諏訪先生と青木さんにやってもらうことにしたから」

「は?」

「え?」

諏訪君と私の声が重なる。

「ははは、息もぴったりだね。大丈夫そうだ」

所長の息もぴったり発言に大倉さんは不快感をあらわにした。

「ごほん。今までの担当の先生でもよかったんだけどね。若い先生の意見もききたくなってね。こちらの我儘で申し訳ないが、よろしくお願いします」

諏訪君にそう仕事用の顔で話しかける。

「はい。でもどうして僕なんですか?」

疑問に思っている諏訪君を援護する。うまくいけば回避できるかも。

「そ、そうですよ。どうしていきなり諏訪先生なんですか?」

私が口をはさむと、大倉さんはこちらに顔を向けて人の悪い笑顔を見せた。

「ちゃんと理由をここでお話したほうがよろしいですか?」

それは諏訪君ではなくて完全に私に向けての言葉だった。

まるで「理由なんて言うまでもないでしょ?」という表情だ。

ブラック時臣……。

初めて見た彼の顔に背筋が凍る思いがした。

私は勢いよく席を立つ。

「あ、あの結構です。これからよろしくお願いします。ではこれにて失礼します」

そう声をかけて出口に向かった。

きょとんとする所長と諏訪君。そして「あーはははっ!ひぃ~」と爆笑する大倉さん。

三人を残して私はデスクへと逃げ帰った。

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