スイートペットライフ
しかしそこには、ボストンバックを抱えた真田さんの姿が。

「ミィ様おかえりなさい。社長でなくて申し訳ありません」

心から申し訳ないと思っているのだろう。顔に気まずさがにじみ出ている。

「あ…すみません。つい」

そう言って頭を下げる。

「あの、大倉さんは?」

真田さんに尋ねると困った顔のまま答えてくれた。

「ちょっと仕事が立て込んでおりまして、今日から何日かは会社近くのホテルに滞在いたします」

「それで着替えを?」

私は真田さんが持っているボストンバックに視線を走らせる。

「えぇ」

「そ、うなんですか」

私は力なく肩を落とした。その様子をみた真田さんは私の肩に手を置いた。

「社長となにがあったかは聞きません。ですが、社長はあれで色々御苦労をされてきています。だから分かりにくいかもしれませんが、あれはあれで単純なんですよ」

まるで父親のような話し方。それだけ大倉さんとの信頼関係が厚いんだ。
私は玄関で真田さんを見送るとその場にペタンと座りこんだ。

「ペットロスになるって言ったの大倉さんじゃない……」

誰にも届かない思いが、口からポロリとこぼれ落ちた。
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