スイートペットライフ
あれから一週間真田さんの言ったとおり大倉さんはマンションに戻ってこなかった。

帰宅時ドアを開けるたびに、淡い期待をしている自分にあきれる。

何度か連絡を取ろうと思ったけれど、自分が大倉さんに何を伝えたらいいのか分からずそれも行動に移せなかった。週半ばに真田さんが書類を取りにマンションに来たので元気かどうか確認をした。

誰もいないこの部屋がこんなにも苦痛に感じるなんて。いつも大倉さんがいて、食事のいい匂いや、彼の馬鹿な行動に怒ったり笑ったり。

リビングのソファに腰掛けて誰もいない部屋を見渡すと、“いつか”の私と大倉さんが楽しそうにダイニングで食事をしている姿が浮かぶ。キッチンに目をやるとフライパンを持ってこっちを見て笑いかけている大倉さん。

「私ったら重症……」

一人つぶやく。するとリビングのドアが急に開いた。

「ミィ?なにやっているの?」

そこに現れたのは大倉さんだった最初私はまだ“いつか”の大倉さんがふらふらあらわれたんだと思って、ぼーっとそれを眺めていた。

すると大倉さんは不思議そうな顔をして、ソファに座る私の前まで来て「ミィ大丈夫?どこか痛い?」と顔を覗き込んでくる。

「お、大倉さん?」

そう尋ねる私。

「違う、オミ君!」

いつも通りの答えが帰って来た瞬間――私は立ち上がり思わず大倉さんの首に腕をまわして抱きついていた。

「お、おかえりなさい…うぐっ」

私はどうしてだか溢れてくる涙を止められずに、ぎゅうぎゅうと腕に力を込めた。
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