スイートペットライフ
「ただいま。嬉しいけど一体どうしたの?」

戸惑いながらも私を抱きしめて背中を撫でてくれた。

「う、う……オミ君いなくなるっ…か、ら」

泣きながらどうにか言葉を紡ぐ。

「ちゃんと、真田から聞いていただろう」

そう言うと、大倉さんの肩に顔をうずめていた私の顎を持ち上げて、自分のほうに向かせた。

「はい……でも」

大倉さんはその大きな手のひらで私の顔を包む。

かなり不細工な顔だと自覚はあるが、逆らうことができない。

大倉さんの骨ばった男らしい親指が私の涙の跡を拭う。

「あ~あ。こんなになっちゃって。ふふふ」

「だ、誰のせいだと思っているんですかっ!」

じゅるじゅると鼻水もすする。

「僕のせいなのかな?だとしたらやっぱり、ふふふ」

大倉さんは笑いながらシャツの袖で私の鼻水を拭いた。

「うぐ、ごべんなざい……シャツが……」

彼のおそらく最高級のシャツで私の鼻水をぬぐうなんて、とっさに我に返って謝る。

「気にしなくていいよ。それより少し落ち着いた?」

優しい目でそう言われて、コクリと頷いた。

すると大倉さんはソファに腰をおろして膝の上に私を乗せた。

「あの、もう平気ですから、おろしてください」

あわててそう言うも、余計に強く腰にまわされた手に力が入った。

「ダメ。僕が大丈夫じゃないから」

そう言って私の髪をなでる。

「ポニーテールしてないんだね」

そう言われて、自分の髪を一房掴んだ。

「自分では上手にできなくて」

そう答えたけれど、本当は違う。あの髪形にすると鏡を見るたびに大倉さんのことを思い出してしまうから、彼がいない間あの髪形はできなかったというのが本当のところだ。

「ごめんね、ミィ」

形のいい一重の澄んだ瞳がまっすぐにこちらを見つめてくる。

「仕事が忙しくて帰って来られなかったのは本当なんだ。だけど――」

「だけど?」

私は話の先を早く聞きたくて催促する。
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