スイートペットライフ
「お前さらっと酷いこと言うのな?」

そう言った瞬間諏訪君は階段の壁に私を押し付けて睨みつけていた。

私なにかまずいこと言っただろうか?

「俺はお前にそういう顔をさせた奴に嫉妬するよ」

強い眼差しで見つめられる。

「ごめん。でも、離して。人が来ちゃうから」

「嫌だね。だいたいどうして俺を頼ってこなかったんだ。さっきの佐和子先輩の話聞いて俺じゃ相談相手にもならないって思われていると知って愕然とした」

いつも彼の瞳には暖かい色がさしているのに、今日はただただ冷たい。

「だって、諏訪君の家に泊めてもらうわけにはいかないでしょ」

「そういう問題じゃない」

じゃあどうしたらよかったの?大倉さんのことを諏訪君に相談したらよかったの?

「お願い。もう、やめて」

諏訪君の肩を押して、逃げ出そうとする。けれど反対に肩を掴まれた瞬間――。

諏訪君のシャープな顎のラインが傾いて、形のいい唇が近付き、私の乾いた唇に重なった。
有無を言わさない、重なるだけのキス。

それでも私に与えるダメージは十分で……。

気がつけば思いっきり諏訪君を突き飛ばしていた。

そして彼を振り切ると階段を勢いよく走り、唇を手の甲でゴシゴシしながら駅に向かった。

諏訪君がこんな行動にでるまでふらふらして、はっきりしていなかった自分が悪いんだ。

自業自得だとは思うけれどジワリと涙がにじんだ。

大倉さんが出勤したであろう昼前にパスポートと旅行の準備をしにマンションに帰った。

素早く準備を済ませると、しばらく旅行にでるとメモを残し空港に向かった。
< 192 / 249 >

この作品をシェア

pagetop