スイートペットライフ
社長室へ向かう間も大倉さんは周りの視線など気にしないで、私の手を今までにないくらいにしっかりと握っていた。

部屋に入ると私をソファに座らせた後、その横に間を開けずに座った。まるで私がまだ逃げ出すんじゃないかと警戒しているように見える。

真田さんがコーヒーを運んでくれて部屋から出て行くまで私達は一言も話をしなかった。その間も手はずっと繋がれたままで、お互いに言いたいこと言わなければならないことがあるけれど言いだせないそんな雰囲気が漂ってる。

最初に口を開いたのは大倉さんだった。

「楓――結婚のことは黙っていてごめん」

そう言って、頭をぐっと下げた。

「嘘をつくつもりじゃ――」

話を続けようとする大倉さんの言葉を私は遮った。

「大倉さん結婚していたことを話してもらえなかったことすごく残念です」

「ごめん」

責めた私に申し訳なさそうな声で謝る。

「ショックで、思わず韓国の母のところまで気持ちを落ち着かせるためにいってきました。

あっちでは、難しいことを一切考えなくて、大倉さんと私について考えました」

「それで?」

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